義妹と畳は新しい方がいいよね 第2×話「おまえも一人」 (by 杉村風太)

 

 ***二人の女を相手にどうするの、何を考えてるの***

 

「充希ちゃん。妹になったのはあなたの方が先だけど、好きになったのは私の方が先」

 

 ええ? 瑞希さんが俺を好きになったのはいつなんだろう。てゆうか、おれを好きなのかどうか聞いてなかった。だって、「そういうのは聞いちゃだめ」って言われそうじゃない。”Don’t ask. Feel!”だ。

そっちはおいといて、充希のは後から来た妹の方が兄と親しくなることへの嫉妬心だ。それは好きというのとは違くねえ。と、口をはさみかかったが、瑞希さんの涼やかな目が「あなたは黙っていて」と言っていた。

 

「そんなの、お姉ちゃんが先に生まれて、先に大きくなったからじゃない。後からだったら我慢しなきゃいけないの。そんな決まりはないでしょう」

 

いや、話が見えないぞ。なんの話をしているんだ。

 

「そうね。昔から家族だったから。最初に好きになったから。同級生だから。義妹だから。そんなことは何の権利にも制約にもならないわ」

 

 何でおれ? 天才でもアイドルでもないのに。どうやらライバルがいるという事実だけで人や獣の闘争心に火が付き、おれという賞品の価値はどうでもいいらしい。激しい戦いの末、勝利したのに、冷静になったところでよく見たらその賞品あんまりほしくなかった。そんなケースが多いんだと。

 

「飽きてうち捨てていたおもちゃでも他人のものになりそうになったら急に惜しくなる。ただそれだけのことだよ」

 

 黙っていられなくなったおれが口をはさむと、充希の全身が炎のオーラに包まれ、ドラゴンのような視線でジロッとおれを見た。こ、こわい。かつてないぐらい。最近、どっちかというと甘えるような言動が多く、久しぶりに見たせいもあるが。以前の炎の女王がブロンズ・クイーンとすれば、今はゴールド・クイーン級だ。史上最大級のドラゴニック・オーラといえる。

 

 助けを求めるような目で瑞希さんを見ると、こっちは氷の女王が「だから黙っててって言ったのに。しょうがない人ね」という目で見てる。彼女なんだからそんな冷たい目をしなくても。いや、口に出して言ってはいないよね。あれ?、おれ、いつの間にか瑞希さんの心もだいぶ読めるようになっちゃったね。

 

「お兄ちゃんはいるのが当たり前で。ずっとあたし一人のお兄ちゃんで。それが当たり前で。だから、お姉ちゃんが来るまで気がつかなかっただけだもん」

 

 充希は本気なの? じゃあ、いままでの義兄に対する仕打ちは、女の子が自覚なく好きな男子を殴ったり蹴ったりするみたいなことなの。いやいや、求愛行動にしても暴力の度が過ぎるでしょう。充希よ、おまえはクリンゴンか(注:SFドラマ「スタートレック」に出てくる、男も女も屈強な戦士ばかりという戦闘的な種族。つがいになるときはお互いに殴り合って骨の2、3本は折っちゃうぐらいむちゃくちゃワイルドに愛を確かめ合う)。恋愛にけがはつきものってそういう意味じゃないぞ。

 

「ごめんね。あなたの気持ちはわかっていたけど。譲ることはできないわ。それに決めるのはわたしたちじゃない」

 

 そんな急に丸投げされても。てゆうか、おれ、瑞希さんが好きだってコクリましたよね。もうだいぶ前に結論出してましたよね。一方の充希には家族としてのかなり深い愛情があります。10年以上も兄妹として暮らしてきていまさら愛情のリセットは無理です。昨日今日、妹になった瑞希さんとは違います。

 

 もしかして、いまの俺っておたく少年みんなのあこがれのシチュ? マンガでしかお目にかかれないハーレム状態なの? ちっともウキウキもワクワクもしないぞ。マンガの主人公はトラウマに残るようなダメージを負わされたりしない。さもなきゃ、1トンのハンマーを振り下ろされても次のコマではケロッとしているぐらい不死身のスーパーマンかだ。体力も耐久性も平凡な俺では身が持たない。

 

                                                         ♪♪♪♪さよならを2回言えばいいだけさ♪♪♪♪

 

                ***、♪♪♪♪(「おまえも一人」 鈴木康博